※緋邑が小動物苦手になった理由です。
 例によって、残酷・アンオフィ表現が入ります。
 苦手な方、興味ない方はスルー推奨です。
昔は……動物に触れるのが好きだった。
だから、よく捨て猫とか捨て犬とか…
見つけては家に持って帰って母親に叱られたっけ…。


「…なぁ」
「あら緋邑様、いかがなさいました?」
「『もみじ』、何処に行ったか知ってるか?」
めったに居ない母親の目を盗んで少し前に飼い始めた子猫の姿が見当たらなくて、
俺は通りすがったうちの女中に問いかけた。
俺の問いかけに、女中は少々困ったような顔をする。
そして、隣に居たもう1人の方へ顔を向けて少し小声で話したあと
俺の方を再び向いて申し訳なさそうな顔で謝罪した。
「…も、申し訳ありません緋邑様、私たちも存じ上げません…」
それだけ告げると、ぺこりと頭を下げて女中たちはその場から立ち去ってしまった。
「……また、逃げちゃったのかな…」
屋敷中行きそうなところを捜したけれど、
『もみじ』もまったく見つからなかった…。
今回ばかりではない。
何度か小さな動物を飼っていたけれど、
いつの間にか居なくなっていて女中たちから
「死んでしまった」とか「逃げてしまいました」と告げられた。

「……俺、動物に嫌われてるのかな…」

肩を落として俯きながら部屋に戻ろうとしたその時、
視界に誰かの足元が映った。
「ひーぃ君っ♪」
「な、父さんっ!?」
突然足元に地面がなくなって、顔を上げると大嫌いな父親の顔。
よりにもよって落ち込んだ時に一番見たくない奴に遭っちまった…。
「このっ!てめ……離せっ!!」
「ひー君は素直じゃないなぁ、めぇ君は『お父さん、おかえりなさい♪』って言ってくれたのに~」
抱き上げられている状態から、なんとか反撃しようともがくが
ヒョロヒョロとした外見からは想像できないほど、
父さんの手はびくともしない。
「うるせぇっ!今はアンタに構ってる暇は…」
「ねぇ、ひー君。いいもの見せてあげようかぁ~♪」
「…うわっ!」
逃げる暇もなく、俺は父さんに抱えられたまま
父さんの研究室に連れて行かれた。
…どうせまた、碌でもない研究を見せられるんだろうか……。
それが嫌で、俺はこの部屋の周辺にはめったに近づかない。
「くだらない事ならすぐ帰るからなっ!」
父さんは、満足するまで絶対離さないだろう。
なら、さっさと見せると言ったものを見て部屋に戻ろう。
少し諦め気味に、研究室の奥の部屋に促されて入る。

……え?

部屋の中には、いくつかの檻があった。
其の中に居るのは…妖獣……?
俺が声も出せずに固まっていると、父さんが後ろから声をかけてくる。
「えへ~、凄いでしょ~♪今ねぇ~妖獣に関するデータをとってるんだよ~♪」
ヘラヘラと楽しそうに語る父さんの声をBGMのように聞きながら、
俺は目の前の光景に何も言えないでいた。

なんでこんなに妖獣が…?
父さんがどこからか連れ帰ったのか…?
ゴーストに関する研究をしてるのは解った…
解ったけど……
ナンデ、アノ妖獣ハ…
俺ガぺっと達二付ケタハズノ首輪ヲ付ケテルンダ…?

「でねっ!ゴーストって運命予報士じゃないと何処にいるかまでは見つけられないじゃない?
だから~、作ったほうが早いかな~と思ったんだよねぇ~♪」
「……は?」
父さんのその台詞に、俺は我に帰って後ろに居る父さんを見上げた。
父さんは俺を見て楽しそうににっこりと笑い、そして…
「ひー君、材料提供ありがとうね♪」
残酷な、其の一言を俺に言った。

それじゃあ…今までの子たちは……
『もみじ』は……。

俺は、我を忘れて檻の前へと走り寄った。
近くで見ても、元の彼らの姿の面影はなく…
いっそ何の関係もない妖獣なら…と願うが、
彼らに付けた首輪やリボンが其の考えを打ち消す。
ああ、俺のせいだ。
俺が…ちゃんと見つけてあげていれば…。
「…ごめっ…っ……ごめん、な…っ……俺が…っ…!」
上手く言葉が出ないが、俺は謝罪の言葉を彼らに伝える。
伝える事しかできない…。
もうこの子たちは元の姿に戻る事もできない…。
「…ひー君、なんでそんなものの為に泣いてるのかな?」
「…っ!」
気づけば、すぐ後ろに父さんが立っていた。
「そんなに其の子たちが大事だったの?そんな実験体がさ~」
背後を振り向くことは出来なかった…いや、出来ない…。
先ほどまでの悲しみの感情すら、恐怖の感情に支配される。
「んー、もう妖獣実験つまんなくなってきたし~、いいや~」
バシュッ!
「え……」
銃声が一発聞こえ、俺の視界は生暖かな赤色で染まった。
生暖かい…?
俺が自分の頬を触ると、ぬるっとした感触を感じる。
さっきまでの涙…?
違う、これは……血だ…。
それを認識した時には、すべての檻の中が真っ赤な血の海に染まっていた。
「あ……な、んで…」
傍らに立つ父さんに顔を向けると、
父さんは笑みを浮かべながら銃をしまっていた。
「ん?だって、もう必要ないものだからね~♪」
そう言って父さんは踵を返し、
奥の方からひとつの小さな籠を持ってくる。
其の中には…
「…『もみじ』っ!」
まだ妖獣になっていない子猫の姿。
今なら『もみじ』だけでも救えるっ!
今まで力の入らなかった身体を無理やり動かし、
俺は父さんの持つ檻を奪おうとかけ寄った。

せめて、せめて『もみじ』だけでも…。

俺は必死に手を伸ばす。
でも、助け出すその前に…
「これも…不必要だね~♪」
父さんは片手で籠を高く上げて、そして…

ガゴッ!

勢いよく…それを投げ捨てた……。
「…っ!『もみじ』っ!!」
落ちて転がった籠は、少しずつ赤く染まっていく。

まだ、まだ死んだと決まってない…。
せめて…せめて『もみじ』だけでも……!

籠に駆け寄り、籠の中から『もみじ』を取り出そうと蓋を開ける。
「……っ…あ…!」



『もみじ』は、生きていた…。
…………ただし、死んでいた方が楽だったという状態で。

手足は折れ、ありえない方向へ曲がり
裂け目からは骨が見えていた。
腹は裂け、内臓が飛び出し『もみじ』の左目は飛び出してしまっている。
が、内臓がまだ心臓や脳に繋がっているからか
『もみじ』は辛うじて息をして鳴いていた。

其の姿に放心状態の俺を側に父さんがやってきて、
『もみじ』の姿を目に止める。
「あれ?まだかろうじて生きてるみたいだねぇ♪」
其の声に俺は放心状態から戻り、後ろを振り返る。
瀕死状態の『もみじ』の姿を愉しむように眺める父さんの顔…。
「もう其の子助からないね~♪それなら、さっさと楽にしてあげないとね♪」
ニコニコと微笑みながら、父さんは『もみじ』に手を伸ばす。
「っ!…やめろっ!!」
俺は咄嗟に父さんの腕に飛びつき、阻止しようと押さえ込む。

これ以上、コイツに『もみじ』を触らせたくないっ。

そんな俺の心理を汲み取ったのか、
父さんは伸ばす手を止めて俺を覗き込む。
「僕が触れるのはダメなんだ~。それじゃあ、ひー君が楽にしてあげればいいよ♪」
至近距離でそう言った父さんは、
俺を腕から引き剥がすと俺の手を後ろから包み込むように掴んだ。
「な、に…?」
そして、そのまま手を『もみじ』の方に誘導される。

…え……まさか……っ!

「や…嫌だっ!やめ…っ、離せよっ!!」
「だって、僕が触れたらダメなんでしょ~♪」
必死に父さんを引き剥がそうと
死に物狂いでもがく。
しかし、もう片方の手も押さえられ逆らうことすらできない…。
手が『もみじ』の頭に触れる。

嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、
嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、
嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、
嫌だーーーーっ!!!


ブシュリ……


「ぁ……」
「ほら、この子も楽になれてよかったね♪」
耳元で父さんが、笑顔でそう囁いた。


* * *
後書きと言う名の補足。

水火土お父さんが出ると途端に残酷に…(汗
いや、こういう人なんでしょうがないんだけど…。
というわけで…以上、緋邑君の小動物が苦手な理由?でした。
この経緯から、動物は割と好きだけど絶対触れない子に…。

…うぅ…いい加減シリアスじゃなくてギャグ書きたい…。
最初に子猫の名前が『おかか』だったのは、秘密…(ぁ